死を告げる妖精「バンシー」
バンシー(アイルランド語で"bean sí")は、アイルランドの伝説に登場する妖精です。
「死の女神」や「死を告げる女性」とも呼ばれ、特定の家系に死の予兆を知らせる存在として知られています。
バンシーの姿と泣き声
バンシーはさまざまな姿で現れます。
美しい若い女性、年老いた醜い女性、夜の川で洗濯をする女など、その姿は見る者によって異なります。
彼女の泣き声や悲鳴は「キーニング」と呼ばれ、その声を聞いた家族に不幸が訪れると言われています。
彼女は夜、家の窓や木の上で悲痛な声を上げ、死が近いことを告げるのです。
暗闇の田舎道
アイルランドの片田舎、ゴールウェイ県の小さな村。
ダブリンの大学に通う19歳の青年が、週末を実家で過ごすため、夜遅くに帰省していました。
バスを降りてからの道は、街灯もない田舎道で、歩いて20分ほどの距離です。
彼は幼い頃からこの道を歩き慣れていましたが、この夜は何かが違っていました。
空には厚い雲が垂れこめ、月明かりさえ見えません。
風が冷たく吹き抜け、木々がざわめいています。
彼は襟を立て、歩くのをを速めました。
死を告げる予兆
突然、遠くから女性の悲痛な泣き声が響いてきました。
彼は思わず立ち止まり、周囲を見渡しましたが、誰もいません。
「気のせいだ」と自分に言い聞かせ、歩き始めた瞬間、今度は耳元で泣き声が響いたのです。
彼は全身が震え、声を上げそうになるのを必死に抑えました。
「…まさか、バンシーか?」
彼の脳裏に祖母から聞いた話がよみがえります。
バンシーは死を予告する妖精であり、その泣き声を聞いた家族には不幸が訪れると。
彼は恐怖に駆られ、家へと走り出しました。
闇の中で枝に足を取られながらも、全力で走り続けました。
予言された悲劇
やっとの思いで家にたどり着き、ドアを開けると、リビングには両親が座っていました。
彼らの表情は暗く、何か重大なことが起きたと悟りました。
「座りなさい」と父が静かに言いました。
「おばあちゃんが…亡くなったんだ」
彼は胸が凍りつくような恐怖を覚えました。
祖母は数日前から体調を崩し、自宅で静養していたのです。
「…いつ?」
彼が震える声で尋ねると、母は涙を浮かべながら、「今夜、午後9時45分に」と答えました。
バスを降りた時間を思い出すと、午後9時40分頃でした。
彼が不気味な泣き声を聞いたのは、まさに祖母が息を引き取った瞬間だったのです。
バンシーの呪縛
葬儀の後、彼は祖母の遺影を見つめながら、あの夜の出来事が頭を離れません。
そしてふと、またあの泣き声が耳元で聞こえた気がして、周りを見回しましたが、誰もその声に気づいていないようです。
彼は悟りました。
バンシーの声が聞こえるのは自分だけなのかもしれない。
そして、それが何を意味するのかも…。
彼は葬儀からの帰り道で、恐ろしい伝承を思い出しました。
バンシーの声を聞いた者の家族に不幸が訪れるだけでなく、次はその人自身の死を予告されることもあると。
それ以来、彼は夜道を歩くのが怖くなりました。
窓の外の風に揺れる木々の影が、まるでバンシーの姿に見えるのです。
遠くから聞こえる泣き声が、彼にはいつも聞こえているような気がしてなりません。
バンシーの伝説
バンシーは、死を予告する妖精として今もアイルランドで語り継がれています。
その泣き声を聞いた者の家族に死が訪れるとされ、多くの人々がバンシーの存在を信じています。
夜の静寂に、アイルランドの田舎では今もバンシーの声が聞こえたという報告があるのです。
科学では説明できない現象ですが、古くから続く伝承は人々の心に深く根付き続けています。
現代のアイルランドを舞台にしたこの物語は、古い伝説と若者の恐怖体験が交差する怪談です。
バンシーの泣き声は、本当に死の予兆なのか、それとも単なる幻想なのか。
あなたも夜道を歩く際には気をつけてください。
いつ、どこで、バンシーの泣き声が聞こえてくるかもしれませんから…。








