「幽霊列車」
19世紀後半、鉄道の発展によってにぎわい始めたイギリスの田舎町、サリー州の小さな町。
この町は、鉄道の影響で少しずつ賑やかになり始めていましたが、町外れには古びた駅があり、錆びついた線路が草に覆われていました。
しかし、この町には、一つの怖い噂がありました。
それは「幽霊列車」の話です。
ある寒い冬の夜、霧が立ちこめて視界がほとんどきかない中、ロンドンから来る列車が町を通過するはずでした。
しかし、列車は霧の中で忽然と姿を消し、乗っていた何十人もの乗客と共に跡形もなく消えてしまいました。
鉄道会社が必死に捜索しても、事故の痕跡は見つからず、まるで列車そのものが存在しなかったかのようだったのです。
この奇妙な事件は忘れられ、やがて人々の記憶からも薄れていきました。
駅員の不気味な体験
その後も、古い線路には不気味な噂がつきまとっていました。
夜になると、駅員たちは「カタン…カタン…」という列車の走る音や、「キィーッ」という車輪の音を耳にすることがありました。
ある冬の夜、駅を閉めようとしていた駅員は、「ポーッ…」と響く蒸気機関車の汽笛を耳にしました。
驚いて外を見ると、使われていないはずの線路にぼんやりと光が見え、霧の中で揺れながら次第に近づいてくるように感じました。
「まさか…この時間に列車が来るなんて…」と駅員は呟きました。
光はさらに近づき、錆びた線路の上に古びた蒸気機関車が現れたのです。
その姿は幽霊のようで、音もなくホームに滑り込んできました。
列車は静かに停まり、扉が「ギィィ…」と鈍い音を立てて開きました。
中を覗くと、青白い顔をした乗客たちが座っており、服装は1870年代のものでした。
彼らは古びたかばんを手に握り、まるで時間が止まったかのような光景でした。
運転席の方を見ると、運転手がじっとこちらを見つめていました。
その目は暗闇のように真っ黒で、何も映っていないかのようでした。
恐怖で動けない駅員を前に、列車の扉は無言のまま「バタン…」と閉まり、霧の中へと再び消えていきました。
音も光も消え去り、周囲は元の静寂に包まれました。
消えない恐怖
翌朝、駅員は高熱を出して寝込みました。
彼が他の駅員にその夜の出来事を話すと、幽霊列車を見たという噂が広まり、誰もがその線路に近づくことを避けるようになりました。
数ヶ月後、彼の体調は悪化し、命を落としてしまいました。
死の間際、彼はうわごとのように「また列車が来る…彼らが…私を…」と呟いていたといいます。
それ以来、古い駅では夜中になると「カタン…カタン…」という音や、「シューッ…」という蒸気の音が聞こえるという噂が絶えません。
その姿を見た者はいないものの、不気味な音は今も消えることなく、静かな夜を包み込んでいます。
振り返るな
幽霊列車の伝説は今も語り継がれ、「列車の音を聞いたら決して振り返るな」と人々は警告します。
もしその音を耳にしたら、消えた列車に連れ去られ、現実の世界に戻ることは二度とできないと信じられているのです。
今夜もまた、霧の深い夜に、誰かが「ポーッ…」という幽霊列車の汽笛を耳にするかもしれません。
それは、消えた乗客たちが終わることのない旅を続けている証なのかもしれません。
満月の夜、古びたホームに立つとき、あなたもその音を耳にするかもしれません。
遠くからかすかに聞こえる汽笛の音と、車輪が地面を滑る音を。









